札幌高等裁判所 昭和30年(う)115号・昭30年(う)114号・昭30年(う)116号・昭30年(う)113号 判決
論旨は、原判決が本件を争議行為の正当性の限界を逸脱した違法な行為であると認定し、労働組合法第一条第二項を適用しなかつたのは、事実誤認及び法令適用を誤つた違法があるというにある。
按ずるに、労働組合法第一条第二項の規定は同条第一項の目的達成のためにした正当行為についてのみ刑法第三十五条の適用を認めたに過ぎず、刑法所定の暴行罪または脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用を認めたものでないと解すべきである。
原審の適法に認定した本件事実によれば、美唄市茶志内所在の三菱茶志内鉱業所(現在・三菱茶志内炭坑)において、昭和二十八年七月在東京都本店三菱鉱業株式会社の指示に基づき、所属鉱員約八百二十名のうち約二百七十名の人員整理を目標とする企業整備を企図し、同鉱業所鉱員を以て組織する三菱茶志内鉱業所労働組合にその整備案を提示して団体交渉を重ねたが、同組合において強くこれに反対し、団体交渉の難行するにつれ反対斗争を強化するに至り、組合員のうち青年層をもつて斗争の前衛となるべき青年行動隊が組織され、被告人伊藤宏は隊長に、被告人山代定一同小野一は各副隊長に、被告人渡辺高明は調査班長にそれぞれ選任され、かくて、被告人等は同年八月二十六日午後三時過頃同鉱業所の事務所玄関前において、青年行動隊員及び群集せるその他の組合員等大衆約百数十名を指揮して、企業整備反対の示威運動を展開していた折柄、偶々同鉱業所勤労課長塩田正典並びに同課長代理渋谷貞吉の両各が外出先より帰来したのを認めるや、同課長等を捉え下記問題の満足すべき回答を求め、併せて企業整備反対斗争の気勢を挙げようとして両名の行手に立塞り、その頃企業整備反対斗争に派生して惹起した「野村問題」(その前々日同鉱業所に勤務する野村勤労課員が、企業整備反対の示威運動に参加した組合員等の主婦達の氏名を調査しようとして組合員等の憤激を買い、組合より会社に対し同人の解雇方を要求していた問題)の回答を求めたが拒否されたので、憤激した被告人等は意思を相通じた上、前記大衆と共に同課長等を包囲監禁した上、あくまで、同問題の回答を迫ろうと決意し、先ず被告人伊藤宏同山代定一等は“逃がすな、囲め”と大衆を指図し、右玄関横において、大衆と共に四、五重程度の円陣にスクラムを組んで同課長等を包囲し、更にその外周に人垣を作つて脱出を至難ならしめた上、しきりに同問題の回答を迫つたが、同課長等がこれに応じなかつたので、同日午後六時頃まで囲みを解かず、その間組合員大衆は逐次増加して約二、三百名に達したが、被告人等は交互に右大衆を指揮して、スクラムを組んでいるものを交替させたり、労働歌を高唱させたり“ワツシヨ、ワツシヨ”と掛声をかけて同課長等の周囲を駈け廻らせたり、或は自らスクラムに参加したりして、気勢をあふり、約二時間五十分の長時間にわたり、引続き多衆の包囲と威圧とにより同課長等両名の脱出を不能ならしめてその自由を拘束し、以つて不法に監禁したものであつて、かかる被告人等の脅迫による不法監禁の所為が、労働組合法第一条第一項の目的達成のためにする正当行為であると認めることができないこと、前段説示に照し明らかである。されば、使用者側に責むべき点があつたと否とを問わず、原判決が本件争議行為の正当性を否定し、労働組合法第一条第二項の規定を適用しなかつたのは相当であつて、所論のような事実誤認及び法令適用を誤つた違法はない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 水島亀松 裁判官 中村義正)